地味に強いんです③

現代小説

国立大学を卒業後、私は微生物検査員として
分析ラボで働いていた

職種的に、派手なメイクや装飾品などで
自分を飾り立てることをせず
地味で引きこもった日常を送っていた

向き合うものは人ではなく
膨大なデータの海

そんな時、大学時代の先輩に紹介されたのが
亮だった
普通なら絶対に交わらない職種の男性

「理系の女性は、頭がいい。
論理的で静かで落ち着いている」

そう言って彼は私に興味を持った

「専門知識を持つ女性に弱いんだ
遊び歩いているような派手な女性は
付き合うと大変だしね」

堅実で、嘘のない性格の子がタイプらしい

「仕事が落ち着いたら結婚しよう」

彼からそう言われたときは
一生分の運を使い果たしたんじゃないか
と思うほど幸せだった

私はその言葉を信じて
5年間、彼を支え続けてきた

人当たりが良く、社交的な彼は
日々激務をこなす
そんな彼を一番近くで支えてきたのは私だ

彼の歩む道を支えることが
私の誇りになっていた

彼が約束してくれた未来を
1ミリも疑っていなかった

彼の優先順位の中で
いつも後ろに回されていたと
分かっていながら……

5年間、私は
自分のやりたいこともキャリアも
すべて後回しにしてきた

尽くして、我慢して
彼の色に染まっていれば
いつか必ず報われる

今夜のパーティーも
彼のために最高のおもてなしをすれば
きっとその先に「幸せ」が待っている

そう、信じて疑わなかった

まさか、タワマンの冷たい廊下で
残酷な真実を知ることになるなんて

私はこれっぽっちも思っていなかった

ふと、亮の部屋に置きっぱなしの
自分の私物が脳裏をよぎった

彼と別れるにしても
マンションにはまだ、私の荷物が……

横断歩道の前で立ち止まり
深く息を吸った、そのとき

「……あ」

次の瞬間、視界の端で
激しいヘッドライトの光が、私を呑み込んだ
鋭いブレーキの音

――そして

私の身体は浮遊感とともに
冷たいアスファルトへと叩きつけられた

遠のいていく意識の中で
最後に思い出したのは
皮肉にも亮が私に言った

「仕事が落ち着いたら結婚しよう」

あの、嘘で塗り固められた優しい声だった

強い衝撃のあと
私は、深い闇に……

……落ちた

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