地味に強いんです①

現代小説

~そんな愛などいりません

25階の窓から見える夜景をバックに
エリートたちのホームパーティーが始まった

シャンパングラスが触れ合う音と
洗練された笑い声

私、水瀬 詩織(みなせ しおり)の隣にいるのは
付き合って5年の自慢の彼氏
藤堂 亮(とうどう りょう)だ

外資系メーカーの営業で
この湾岸エリアのタワマンに住む
トップクラスのビジネスエリート

私は今日という日を
ずっと心待ちにしていた

私たちは付き合って5年目

この華やかな夜景の前
友人たちの集まる中で
きっと彼からプロポーズをされる。

そんな、おとぎ話のようなゴールを
信じて疑わなかった

「あ、お酒がなくなったな
悪いけど、詩織
買いに行ってきてくれない?」

彼の軽い一言に
胸の奥がぎゅっと締め付けられた

今日は私たちが付き合って
5年目の特別な日なのに

準備から料理まで
すべて私ひとりで準備した

この凍える夜に
また私を外へ行かせるの?

「ワインは、十分そろっているけれど……」

「紹興酒が飲みたいんだ」
「しょう……こう……」

彼らが好きなお酒は準備していた
今から買いに行っても
売っているとは思えない

彼はめったに中国のお酒は飲まない
そもそも、飲んでいるところを
一度も見たことがなかった

「やっぱ、中華と言えば紹興酒だよな」

友人の一人がニタニタ笑って後に続いた

春巻きが食べたいという
亮のリクエストに応えた結果がこれだ

「もうお店も閉まってるし
コンビニには売っていないから……」

やっぱり「いいよ」と
言ってくれないだろうか……

「行ってみてなかったら
それでいいけど
行かずに決めるのはどうかと思うよ?」

確かにそうかもしれない

一品だけど、中華を出しているのに
中国酒を用意しなかった

……私のミスだ

一瞬だけ湧いた懐疑心を
意識の底へ無理やり押し込んだ

ここで場の空気を乱すわけにはいかない

私が不機嫌になったら
せっかくの夜が台無しになってしまう

「わかったわ。すぐ戻ってくるね」

精一杯の笑顔を顔に貼り付けた

愛されているにふさわしい従順な彼女

彼に嫌われたくない一心で
私は自分の気持ちに蓋をする

そんな日常に慣れすぎていた

亮は背が高く
モデルのような整った顔のイケメンで
私にとっては
まぶしすぎるくらいの人だった

そんな彼が何のとりえもない
私のような地味な女を
恋人に選んでくれた

彼のためなら
冷たい夜風の中へ飛び出すことさえ
献身の証だと思えた

コメント