だから門脇君は、ずっと私のそばにいる②

◆ だから門脇君は、ずっと私のそばにいる
◆ だから門脇君は、ずっと私のそばにいる

下校

「おお! 女子の体育! 麗美ちゃんいる?」
体育の授業でトラックを走る女子を眺めていたら、佐々木健(ささきけん)が話しかけてきた。 健は俺の友人で、いい奴だが少しお調子者なところがある。 クラスで一番可愛いと噂されている櫻井麗美(さくらいれみ)に熱を上げているが、残念ながら相手にされていない。
「……あれ誰だっけ?」
「誰? どれ? ショートカットの子?」
俺はフォームの整った、背のすらっとした女子を指さし訊ねた。
「え、あのスタイルいい子? 伊藤だよ。伊藤明里、同じ中学じゃなかった?」
「いや、違うな。」
二年に上がって文理が分かれクラス替えがあったから、 一年のときは別のクラスだったのだろう。
初めて見る顔だった。
「何、気になるの?」
「いや別に。ただ、すげえフォーム綺麗だなと思って。」
彼女の走る姿が妙に板についていて綺麗だと思った。
「話したことあるよ。中学までは陸上やってたって。今は何も部活やってないはず、麗美ちゃんの親友だ。」
「勿体ないな、綺麗なのに。」
あんなに完璧なフォームで走れるのに帰宅部とは、続けれいればいいとこまで行けたかもしれないのにと惜しい気がした。
「確かに伊藤は美人だよな。でもさ、俺絶対身長超されてそうだ。股下とか確実に負けてるわ。」
フォームの話をしていたはずだが、まあ、敢えて否定はしなかった。
それから何となく彼女を目で追うようになった。前下がりのショートボブがよく似合っていて、授業中、落ちてきた前髪を耳にかける仕草が目を引いた。
伊藤は色白で肌が綺麗だった。顔はあっさりしていて目立つほどの美人ではないけど自分好みの顔だ。さっぱりとしてクセのない性格は、同性からも好感を持たれているようだった。
俺は話しかけられたら普通に話すし、別に女子を意識して挙動不審になるタイプではない。ただ、体がデカいせいで女子に限らず知らない人からは怖がられてしまう。
だから用事もないのに伊藤に話しかけることはできなかった。

俺の身長は、小学六年生の時点ですでに170センチを超えていた。町を歩いていると、高校生に間違われることもよくあり、何度もやんちゃな中高生に喧嘩を吹っかけられ、そのたびにボコボコにされる小学生だった。
中学に入ると、このままではやられっぱなしだと気付き鍛えるために柔道部へ入部。少しでも強くなりたい一心で、部活動に打ち込んだ。
その努力は実を結び、全国大会でベスト4に入るほどの実力を身につけた。
この高校は進学校で柔道部がなかった。なんとなく先輩に誘われてラグビー部へ入り、プレースタイルを変えることにした。
自分はどちらかというとサポート気質だ。 ラグビーはチームプレーの競技であり、協調性が重要なスポーツ。 メンバーとの信頼関係を築き、自分の役割を全うすることを大事にした。

伊藤と二人で帰ることになった。
朝、チャリのタイヤがパンクしているのに気づき、運が悪いなと遅刻が頭をよぎった。 だが今となっては、チャリに感謝しかない。この偶然がなければ、伊藤と一緒に帰ることもなかったのだから。
彼女は誰とでも分け隔てなく会話ができるタイプで、道中も気を遣って話しかけてくれた。けれど基本無口な俺は、訊かれたことにしか答えを返せなかった。こういうときに気の利いた面白ネタでも仕込んでおくべきだったと、日頃の無頓着さを呪った。明日は平日だけど学校が休みになる特別な日で、部活もない。「どっか行こうか?」と誘うべきか……?でもさっき、麗美ちゃんを誘って伊藤は断っていた。明日誘うのは、やめておいた方がいいだろう。
そんなことを考えていたら、気づけば俺たちは一列になって歩いていた。

そのとき、商店に貼られていた夏祭りのポスターが目に留まった。
(そうだ、もうすぐ夏祭りだ。)
俺は、これだと思った。
「来週花火大会だな。俺、一緒に行く人いないけど。」
毎年夏祭りの締めくくりには恒例の花火が上がる。行く人がいないなんて言うのはわざとらしかっただろうか?ボッチ感がありすぎて、キモくないか……?
「そうなんだ。」
あっさり納得された。いや、彼女は祭りに何の興味もなさそうだ。
「一緒に行く?」
「……なんで?」
決死の覚悟で誘ったのに、この返しは想像していなかった。二人の間に沈黙が続く。
「……え、それ訊く?」

コメント