だから門脇君は、ずっと私のそばにいる⑤

tomboy

男子たちが掃除中にふざけて、部室棟の屋根へ箒を投げた。 それがトタン屋根に引っかかり、落ちてこなくなってしまった。

数人で何とか取ろうと試みていたが、どう頑張っても届かない。

「稜太、肩車してくれ!」 「マジかよ川崎、お前何キロだよ……いけるかな」

門脇くんよりは痩せているだろうが、川崎くんは70キロはありそうだった。 私はその様子を一階の廊下から眺めていた。

そうこうしているうちにチャイムが鳴り、箒は屋根の上に取り残されたまま。 男子たちは「放課後また来て取ろうぜ」と言い合っていたが、あれは確実に忘れられるだろう。

(後で脚立でも持ってきて私が取ろうかな)

そんなことを考えながら、放課後、日直だった麗美を教室で待っていた。

「何かあるの?」

窓の外を見ていた私に、麗美が声をかける。

「あそこの屋根の上に箒が乗ってるでしょ? あれ取ろうかなと思って」

「誰かいたずらして乗っけちゃったんだね」

麗美はくすくす笑った。

「脚立ってどこだっけ?」

「用務員さんに聞けば分かるかも。一緒に行こうか」

先生に聞くと理由を詰問されそうだったので、用務員室へ向かった。 しかし今日は不在らしく、鍵が閉まっていた。

「仕方ないね。とりあえず現場行ってみよっか」

「石とか投げてみる?」

麗美が屋根から柄だけ飛び出した箒を見ながら言う。

「当たっても落ちてこないと思う……」

私は何度かジャンプしてみたが、身長170センチ近い私でも届かなかった。

「しょうがないね」 「そうだね、諦めようか」

二人で教室へ戻ろうとしたとき、後ろから佐々木くんと門脇くんがやってきた。

「お、箒チャレンジしてくれてたの? 麗美ちゃん、ありがとね。優しいね、女神だね」

麗美は私の背中に隠れ、「いいえ……」と小さく答えた。

「届かないだろ?」

門脇くんが私に言う。

「うん、無理っぽい」

「伊藤、お前、背何センチ?」

佐々木くんが横に立って尋ねる。

「170ちょっと足りないくらい」

「よっしゃー! 肩車するから取ってくれ!」

佐々木くんはしゃがみ、肩に乗れとジェスチャーする。

「え、嫌だ……なんでよ」

スカートで肩車なんて、嫌に決まっている。

すると門脇くんがつかつかと歩み寄り、そのまま佐々木くんの頭にまたがった。

「ちょ、稜太! やめろ、無理だろ、逆だろ!」

無理やり肩に乗ろうとする門脇くんと、必死に拒否する佐々木くん。 その光景がおかしくて、思わず笑いそうになる。

「大丈夫だ、多分いける」

その“多分”が一番信用ならない。

二人はふざけながら言い合い、麗美は驚いた顔で見つめていた。

結局、門脇くんが佐々木くんを肩車し、ホウキ救出作戦は成功した。

「わるい、ありがとな」

門脇くんは私たちに礼を言い、そのまま部活へ戻っていった。

「門脇くんって、ひったくり犯を一緒に捕まえた人だよね?」

麗美が訊ねるので、私は頷いた。

「門脇くんって、女子に話しかけるタイプの人だったんだ……」

麗美は少し意外そうだった。

「そう? 確かに強面だから女子に恐れられてるよね。強そうでしょ? ゴリラって呼ばれてるって本人が言ってた」

「わかるかも。シャバーニっぽいもん」

「シャバーニって何?」

「イケメンゴリラで有名なゴリラ。子どもの頃テレビに出てたよ」

「へぇ、そうなんだ」

イケメンだからゴリラなのか、強面だからゴリラなのか―― 呼んだ人にしか分からないな、と私は思った。

***

日直が一緒になり、門脇くんが話しかけてきた。 そういえば、ひったくり事件以来、彼とまともに話していなかった。

「あれからどう? SNSで晒されたから周りうるさくなかった?」

「そうだね。今は落ち着いたかな。近所のおばちゃんに褒められたよ」

門脇くんは「俺も似たようなもんだった」と笑った。

笑うと、意外とかわいらしい顔になる。 強面で近寄りがたいイメージがあったけれど、こうして笑っていると、ずっと話しやすいのにと思った。

「陸上やってたんだよな?」

「うん。中学までは陸部だった。今は受験のために帰宅部」

「ああ。頭いいもんな、伊藤」

確かに私は頭がいい。麗美には敵わないけれど、クラスでは上位だ。

「そんなことないよ、とは言わない。門脇くん、数学で赤点取ってたもんね」

「マジか、知ってんのかよ。でも、あれから俺は数学に目覚めた。今はちゃんと勉強してる」

ハハハと笑いながら、日誌を書き終えた。

そのとき、彼が少しだけ真面目な声で言った。

「あのさ、うち酒屋なんだけど、福引の景品で映画のチケットがあるんだ。よかったら一緒に行かない?」

「……なんで?」

「え……」

なんで私が門脇くんと映画に行かなきゃいけないのだろう。 確か、テニス部の後輩と付き合っていたはずだ。

「あ、もしかしてスプラッター系? ホラー?」

彼女が苦手なのかと思った。

「いや、アクションだけど、人気あるやつらしいから」

「そうなんだ。それなら佐々木くん誘いなよ。男の人、そういうの好きでしょ?」

「ああ、そうだよな」

「でも、誘ってくれてありがとう」

一応、お礼は言っておいた。 アクションが苦手な彼女なのかもしれない。

「この間のひったくり事件、伊藤がいなければ逃げ切れなかったし、あの時の礼もしたい。俺は伊藤さんと行きたいんだけど……伊藤さんが良ければだけど」

ああ、そういうことか。

女子高生あるあるだけど、ただ話しただけで「彼氏を取った」とか言われるこのご時世、そんな面倒は嫌だ。 余計な誤解を生むような行動は避けたい。

「私は良くないかな。時間がないんだよね、ごめんね」

バタン、と机に突っ伏し、わざとらしくショックを表す門脇くん。

「お互い様だし。お礼とか必要なくない?」

「まぁ、そうなんだけど……」

「気を遣ってくれてありがとう。アクション、楽しんできてね」

佐々木くんはアクション映画が好きそうだ。

「……俺が嫌いとか、キモいとか、そういうんじゃないよな」

「……なんで?」

彼の声が、ほんの少しだけ不機嫌そうに聞こえた。

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