北海道
札幌に着くまでの間、私はずっと忙しかった。 とにかく――門脇くんの泊まる場所を確保しなければならない。
まずは自分が予約しているホテルに問い合わせる。 さらに、帰りの飛行機も同じ便で取れるよう、彼の分を予約することにした。
「さぶっ……」
そうでしょうとも。 真冬の北海道が寒いに決まっている。
門脇くんは荷物も持たず、旅行に来るような服装でもない。 何もかも腹立たしい。
今から準備するとしても、着替えや鞄を普通に買っていたらお金がもたない。 私は電車の中で、これからの行動を必死に考えた。
私たちの住む埼玉県熊谷市は、日本で一番暑い町と言われている。 そんな場所で育った門脇くんが、薄着のまま北海道にいる。
なんだか、滑稽に見えてきた。
「まるで真冬に半袖半ズボンで登校してる小学生になった気分だ」
「大丈夫、門脇くんなら気合でなんとかなるんじゃない?」
私は嫌味を混ぜてニヤッと笑った。
札幌市内はすごかった。
「うわっ……めちゃ都会」
門脇くんは辺りを見回しながら「スゲー」を連発している。 私も内心驚いていたが、顔には出さなかった。
私は今まで札幌で観光をしたことがない。 おじいちゃんが住んでいたのは紋別で、札幌から270キロも離れている。 紋別はオホーツク海沿岸の流氷の世界。 冬は雪に覆われ、最低気温マイナス36度を記録するほどの寒さだ。
今のナイロンジャンパー1枚では、門脇くんは確実に死ぬ。
「どこに行く? とりあえず、時計台とか?」
門脇くんはどこで手に入れたのか観光マップを広げ、楽しそうだった。
「すすきの」
「え? すすきの? すすきのって……大人の町?」
すすきのは歓楽街のイメージが強いが、それだけではない。 買い物もできるし、おしゃれなカフェも、美味しいレストランもある。
私はこのエリアにホテルを予約していた。 高校生には少しハードルが高いかもしれないが、見た目は大人だから問題ない。 誰にも文句は言わせない。
“先生モード”発動
私は門脇くんの前に立ち、教師のように鋭い視線を向けた。 私は170センチ弱だが、門脇くんは180センチ超え。 見上げる形になるが、気迫では負けない。
「まず、門脇くんが行きたい場所に行けるよう善処します。 けれど、その前に買い物が先。 明日、紋別に行く。オホーツク、流氷で有名なところ。 そこはマイナス30度超えるくらい、氷点下」
「お、おう」
「嫌かもしれないけど、古着で防寒着を揃える。予算は5000円以内」
“嫌とは言わせないぞ”という圧を込めて伝えた。 マイナス30度は言い過ぎかもしれないが、寒さ対策は必須だ。
「ああ、……えっと。わかった」
「それと、私も札幌には幼い頃に来たことがあるけど、記憶がないから初めても同然。 何か聞かれても分からないから」
「え、マジで?」
門脇くんは少し驚いたようだった。
「友達がいるとか、親戚が住んでるとかじゃないの?」
すすきの
大通公園では雪まつりの準備なのか、巨大な氷像が製作途中だった。 まだ完成していないのに迫力がある。
ゆっくり見たい気もしたが、通り過ぎてすすきのを目指した。
地図アプリで確認しながら、全国展開しているリサイクルショップに入る。
比較的安くて、きれいで、洋服がたくさんある。 ブランドにこだわらなければ、リュックやヤッケが1000円ほどで買える……はず。
店内に入ると、さらにセール中で洋服が半額になっていた。
とにかく必要そうなものをかごに入れ、その場でタグを全部切ってもらい、 「すぐに着ます」と言ってリュックに詰め込んだ。
「意外とお洒落に揃ったから、びっくりだわ」
予算内とはいかなかったが、寒さをしのぐには十分な装備が整った。
「俺、このアウター嫌なんだけど、ダサくね?」
「知り合いに遭遇しないし、いいんじゃない? 逆に誰もが知ってるブランドの方がダサいよ」
「でもさ、プーマじゃなくて、フーマって書いてる。PがFになってるぞ」
「あ、ホントだ」
買ってから気づいたが、自分が着るわけではないので、まあいいかと思った。

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